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何かの残骸

メモです。

エデン

エデン

面白い本って文字を追うのがじれったくて、読み終えると満足感と寂しさがどっとやってくるよな。
というわけで、文庫化したら買うとして(予算と体積的に)、ひとまず図書館で。手元に置いておきたいくらい面白い本は借りて読んでも後で買うのです。
前作のサクリファイスもそういう本だった。
サクリファイスは、ロードレースを知らない人間にもその駆け引きや面白さが伝わってくる作品で、何よりも石尾という登場人物の信念に圧倒された。その石尾が今作のエデンには出てこないため、今回どうなんだろうな〜大丈夫か?・・・と恐る恐る読み始めたけど、そんな心配は杞憂で最後まで一気に読んでしまった。
まず、舞台が素人でも聞いたことあるあのツール・ド・フランスってのが燃える。
サクリファイスがあって、その上でこの誰もが知ってる大舞台に主人公の白石が立つ事の重さが読み手にも圧し掛かり、それが物語中にちらばっている。
本場ヨーロッパのロードレース事情、ロードレースの立ち位置、人種の問題等々が物語の中で説明くさくなく描かれていて、ロードレースに生きる選手達の背負うものと思いが絡み合い、今作もぐいぐい物語に引き込まれる。
ロードレースの描写も健在で、デビューしたばかりの若手のホープであるニコラをベテラン勢がやり込めるとことは経験がものをいうロードレースならではな戦いで面白いし、何よりもラルプ・デュエルでの白石とニコラの駆け引き、白石の戦い方、あの瞬間、ほんと手に汗握る展開で圧倒された。今回、白石がアシストするのはミッコっていうこれまた寡黙なフィンランド人で、彼と信頼関係を築き上げ、自分の在り方を見つけて成長していく白石も良かった。
しかし、エデンはミステリーってよりもロードレースが主体で、ミステリー方面に期待していた人にとっては肩透かしかもしれない。私はミステリーなしの短編「プロトンの中の孤独」から入ったタイプだから、今作も凄く楽しめたけど。
そういや、近藤作品は女性が絡むとロクな事がないイメージがあるので、今回も序盤で出てきた深雪ちゃんが「お前かっ!お前が何かやらかすんかー!」と怪しく思えて仕方なかった。結局、物語に少し花を添えるって言うか、中心人物の一人であるニコラの人となりを描くための+αだったり、ニコラと白石を結ぶ糊(接着剤に非ず)のような感じで、まったくの勘違いだったわけだけど。ごめんね深雪ちゃん・・・
しかし、人間生きてりゃそれなりに何かを背負ってるけど、背負うものくらいは自分で決めたいよ。
誰が背負わせたのかっていうのもあるけど、誰かに背負わされたものと、自分で背負うと決めたものとでは、全然違う。このシリーズに関しては、選手たちは自分が踏みつけてきた者の思いを背負い、背負っていく覚悟で挑んでいるものの、やはり、何てものを背負わせたんだよ石尾は・・・と思ってしまう。背負ってるのは私じゃないし、白石はちゃんとその重さに潰されずに進んでいける人間だと思うので別にいいんだけどさ。
発売されて間もないのになんだけど、早く文庫化して欲しい。